LGBTQ+ Wiki
Advertisement

概要[]

人称代名詞(personal pronouns)とは、会話等のなかで、主に人を指す際に使われる代名詞のことです。英語ではIやyou、sheなど、日本語では「わたし」「あなた」などがこれに当たります[註 1]。人称代名詞の一部は、性別に関する示唆が含まれるものもあります。また、全く含まないジェンダー・ニュートラルなものもあります。そのため、相手を正しく言及するものを用いることが大切です。ただし、アウティングにも気をつけてください

人称代名詞はセックスではなくジェンダーを示唆します[1]。ただし、人称代名詞は多くの場合対象の性別と一致するものの、必ずしもそうであるとは限りません。Sheの男性やthey/sheの女性などもいます。モノジェンダー (一つのみの性別である)人であっても、いくつかの人称代名詞の方もいます。

代名詞の伝え方・尋ね方[]

相手の人称代名詞がわからない場合は尋ねるか、ジェンダー・ニュートラルなものを使用しましょう。勝手に予想してはいけません。ミスジェンダリングの原因となります。 代名詞を尋ねることは通常、失礼に当たらないとされますが、ジェンダー・ノンコンフォーミングな人にのみ尋ねるのは失礼です。また、状況や環境、関係に応じては、開示しにくい場合もあることを理解してください。尋ねる際は、可能であれば自身の人称代名詞をきちんと伝えましょう。pronouns.pageなどのサービスを活用するのもよいでしょう。

尋ねる際、英語の場合、以前はpreferred pronounsという表現を用いることもありましたが、現在は不適切であるとされます。代わりに、"What are your pronouns?"などと尋ねましょう。表記する際、複数ある場合は「/」でつなげます(読む場合は発音しない)。なお、「どの代名詞か問わない」の場合はanyやallなどと表現します(anyやallとthey/she/heは異なります)。

  • Mika: "What are your pronouns?"
  • Luna: "My pronouns are xie/they."
  • Nano: "My pronouns are ze/they."
  • Alex: "I go by she/her."
  • Jan: "I go by all pronouns."
  • Zula: "I go by he/her."
  • しずか:「自分の代名詞は彼人です。」
  • るこ:「ぼくは彼女です。」

代名詞の力[]

人称代名詞は、人をただ指すのではありません。それは、その人の社会における立場やアイデンティティをも指すものです[2]。また、われわれの言葉は、世界を反映するのみでなく、われわれの存在する世界を構築するはたらきもあります[3][4]代名詞を誤ることは、つまり、相手のアイデンティティを積極的に否定することでもあるのです。

日本語[]

書記、音声日本語[]

以下、三人称代名詞をいくつか挙げます。

代名詞 読み方 示唆する性別 備考
彼人 かのと、かのひと なし 木原善彦ら考案[5]。ただし、「あのひと」としては近世以降[6]、「かのひと」としてはすくなくとも1800年代末以降[7][8]、使われていた。
彼女 かのじょ 女性寄り
かれ 男性寄り、なし
彼男 かのだん 男性寄り 頼(たのみ)考案[9]
かれ かれ なし
かれ なし 近代文学で使われていた三人称代名詞。[10]

日本手話[]

「参考リンク」も参照のこと[11][12][13][14][15][16][17][18]

手話の意味(代名詞) 表現 示唆する性別 備考
男、彼 親指を立てた表現 男性寄り、なし[註 2]
女、彼女 小指を立てた表現 女性寄り
- 人差し指を立てた表現 なし <会う><ついていく><列>などの手話表現の一部で人として使われるが、単独で使われることはあまりない。そのため、代名詞として用いるのは一般的に流通した手話表現ではない。「セクシュアルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国大会」(2013〜)[14]など、一部のイベントで代替表現として使われている。

英語[]

英語の人称代名詞には、「主格」「目的格」「所有格」の3種類があります。以下、これに「所有代名詞」と「再帰代名詞」を加えて説明します。

  • 主格(例: She) is happy.
    「例:彼女はしあわせだ」
  • The cat likes 目的格(例:them).
    「例:そのねこはその人/その人たちを[註 3]好きだ」
  • 所有格(例: Her) cat is happy.
    「例:彼女のねこはしあわせだ」
  • The cat is 所有代名詞(例: hers).
    「例:そのねこは彼女のだ。」
  • Alice likes 再帰代名詞(例: herself).
    「例:Aliceは彼女自身が好きだ」

「伝統的」とされる代名詞は、多くの場合女性寄りを指すshe、多くの場合男性寄りを指すhe、そしてジェンダー・ニュートラルなtheyの三種類です。 これらをprotopronouns、protopronouns以外の人称代名詞を「新代名詞 neopronouns」などといいます。ここでは、代表的な三人称人称代名詞と活用を挙げますが、これら以外にも数多くあります。また、活用も人によっては異なる場合もあります。聞き慣れないものや難しいものは調べてみたり、相手を尊重しながら尋ねたりしてください。

主格の発音 主格 目的格 所有格 所有代名詞 再帰代名詞 注意
/ðeɪ/(ゼイ) they them their theirs themself(単数のtheyの場合のみ)/themselves(単複問わず)
/ʃiː/(シー) she her her hers herself 多くの場合、女性寄りの人を指す
/hiː/(ヒー) he him his his himself 多くの場合、男性寄りの人を指す
/niː/(ニー) ne[19] nem nir nirs nemself
/viː/(ヴィー) ve[19] ver vis vis verself
/ei/(エイ) ey[19] em eir eirs emself
/ziː/(ジー) ze[19] zir zir zirs zirself zeは活用が数種類ある
/ziː/(ジー) ze[19] hir hir hirs hirself zeは活用が数種類ある
/ziː/(ジー) xe[19] xem xyr xyrs xemself 主格、所有格、所有代名詞はze (zir型)と同じ発音
/fei/(フェイ) fae[20] faer faer faers faerself

単数のthey[]

Theyは複数の人を表すこともありますが、一人のみを表す場合もあります。この場合のtheyを「単数のthey(singular they)」と呼びます。Singular theyの活用や動詞のかたちは、複数を表すtheyと基本的には変わりません。

  • Niaはthey/themです。
  • *Nia is drinking coffee. They is happy. (誤)
  • Nia is drinking coffee. They are happy. (正)

ただし、再帰代名詞のみ、themselfとなることがあります[註 4]

  • Nia is drinking coffee by themself. (正)
  • Nia is drinking coffee by themselves. (正)

単数のtheyは新しく出てきた用法ではありません。歴史的には14世紀以降広く使われ続けている自然な用法です[21]。英語圏では、単数形のtheyを不自然だと主張する人がそれを主張するなかで単数形のtheyを意識せずに使ってしまう例も、しばしば見受けられます。また、単数形のtheyの使用は、APAなどのスタイルマニュアルでも推奨されています。これまでは、アカデミック・ライティングなどの場を含めて、性別を問わないときは(s)hes/heあるいはshe or heなどと書かれることもありました[註 5]が、APA第七版からこれらの使用は推奨されていません[22][23]

単数のtheyは「ノンバイナリーの代名詞」ではありません。あくまでジェンダー・ニュートラルです。そのため、例えばsheのシスジェンダー女性を表す際に単数のtheyを用いることも、通常は問題はありません[註 6]。もちろん、相手の代名詞が確認でき次第、それを優先することが適切でしょう。

  • Luaはshe/herです。
  • Lua likes her cat. (正)
  • Lua likes their cat. (OK)

他の言語[]

もちろん、他の言語にも人称代名詞はあります。ここではいくつかを挙げます

スウェーデン語[]

  • hen (ジェンダー・ニュートラル)
  • hon (女性寄り)
  • han (男性寄り)

スペイン語[]

  • elle (ジェンダー・ニュートラル)
  • ella (女性寄り)
  • él (男性寄り)

ドイツ語[]

  • sier[24] , xier[24] (ジェンダー・ニュートラル)
  • sie (女性寄り)
  • er (男性寄り)

参考リンク[]

pronouns.page
自身の代名詞を伝えるプロフィールをつくれます(日本語対応)。
Pronoun wiki (英語)
多様な代名詞に関するインクルーシブなwiki。
Kirby Conrod(英語)
単数のtheyなどを研究している言語学者のブログ。

日本手話[]

注釈[]

  1. ただし、日本語におけるこれらは名詞の一種であるとみなす立場もある(e.g., 田窪, 行則. (1997). 「日本語の人称表現」. 『視点と行動』. くろしお.)。本記事では、これに留意しつつ、機能面の類似性に着目してここで紹介した。
  2. 性別を含意しない無標の表現は、特定人ではない場合。医者や教師など複合名詞をつくるときに用いる
  3. 後述のように、単複どちらの場合もある
  4. ただし、themselfは誤っているとされることもあります
  5. 18世紀には、heを用いることが提唱された。現在はsexist languageとして一般には非推奨である(Curzan, A. (2003). The gender shift in histories of English. In Gender Shifts in the History of English (Studies in English Language, pp. 31-57). Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/CBO9780511486913.003)
  6. ただし、ある女性をあえてsheと呼びたくない場合などに使用するのは適切ではありません。


参考文献[]

  1. Conrod, K. (2020). Pronouns and Gender in Language. In K. Hall & R. Barrett (Eds.), The Oxford Handbook of Language and Sexuality (1st ed.). Oxford University Press. https://doi.org/10.1093/oxfordhb/9780190212926.013.63
  2. Wen Lin, C. (2011). The Study of Political Language: A Brief Overview of Recent Research. CHIA-NAN ANNUAL BULLETIN, 37, 471–485.
  3. Austin, John Langshaw. 1975. How to do things with words. Oxford University Press.
  4. Butler, Judith. 2013. Excitable speech: A politics of the performative. Routledge
  5. KIHARA Yoshihiko. (2021-03-14). @shambhalian. Twitter. Retrieved from https://twitter.com/shambhalian/status/1370987444196179969
  6. 精選版 日本国語大辞典. (n.d.) Retrieved from https://kotobank.jp/word/%E5%BD%BC%E4%BA%BA-2002900
  7. 徳富蘇峰. (1892). 青空文庫. Retrieved from https://www.aozora.gr.jp/cards/001369/files/51204_62108.html
  8. 斎藤隆三. (1919). 画題辞典. 新古画粋社. DOI:10.11501/950521. Retrieved from https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/950521
  9. 頼. (n.d.). レンタル彼男 Retrieved from https://tanomikun.wixsite.com/rental-kanodan on 2022-09-10.
  10. nkhr0401. (n.d.). 性中立的な言葉, 力の支配を逃れるために Tumblr. Retrieved from https://nkhr0401.tumblr.com/
  11. 岡 典栄, 赤堀 仁美他. (2011).『文法が基礎からわかる日本手話のしくみ』. 大修館. pp. 84-85
  12. セクシュアルマイノリティと 医療・福祉・教育を考える全国大会2021
  13. セクシュアルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国大会2022
  14. 14.0 14.1 セクシュアルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国大会2023
  15. 新ろうlgbtqサポートブック (2018/5発行)
  16. 手話にも変化 「無理に『男』か『女』かを決めて表現されるのは大変苦痛」ジェンダー平等な表現へ|日テレNews (2022年4月10日 12:00)
  17. 耳の聞こえない性的マイノリティの人が困ることとは?-理解ある手話通訳者が不足している現状|BIG ISSUE ONLINE (2017/11/21)
  18. 「日本手話における性別手型の構造分析」(大杉豊/テッド・スパラ、『手話 コミュニケーシ ョン研究27』p60-74、1998年)
  19. 19.0 19.1 19.2 19.3 19.4 19.5 The Need for a Gender-Neutral Pronoun. (2010-01-24)., Gender Neutral Pronoun Blog. Retrieved from https://genderneutralpronoun.wordpress.com/2010/01/24/the-need-for-a-gender-neutral-pronoun/ on 2022-09-08.
  20. lovemeunlovely. (2013-11-09). Pronouns I have encountered in no particular order, Ask a Non-Binary. Retrieved from https://askanonbinary.tumblr.com/post/66494772838/pronouns-i-have-encountered-in-no-particular-order on 2022-09-08.
  21. they. (2022-09)., Oxford English Dictionary, Online ed. Oxford University Press. Retrieved from https://www.oed.com/view/Entry/200700 on 2022-09-08.
  22. Singular “They”. (2022-07)., Style and Grammar Guidelines. apastyle. Retrieved from https://apastyle.apa.org/style-grammar-guidelines/grammar/singular-they on 2022-09-08.
  23. American Psychological Association (Washington, District of Columbia) (Ed.). (2020). Publication manual of the American psychological association (Seventh edition). American Psychological Association.
  24. 24.0 24.1 Illi Anna Heger. (n.d.). PRONOMEN WIE XIER UND SIER Retrieved from https://www.annaheger.de/pronomen/
Advertisement